海外遠征に帯同することになったとき、スポーツトレーナーとしてどんなことに気をつけたらいい?

海外遠征に帯同することになったとき、スポーツトレーナーとしてどんなことに気をつけたらいい?

スポーツの競技会や強化を目的とした合宿・遠征など、海外でおこなわれる機会が非常に多くなってきており、それに伴い海外でのスポーツ活動や滞在生活における競技者のコンディショニングやサポートスタッフのコンディショニングにたいするノウハウが重要となってきています。

海外でおこなわれる国際競技会には、オリンピックやアジア競技大会、ユニバーシアードなど各種スポーツが同時期に開催される総合競技大会と単独競技によるW杯、世界選手権、アジア選手権などの単独種目競技大会とに分けられます。

これらに出場するアスリートやチームはおもに国を代表するナショナルチームになります。

そういった国際大会に帯同するスポーツトレーナーは、単独競技チームに専属的に帯同する場合と、総合競技大会で本部医務班のメンバーとして選手団全体のスポーツトレーナーとして帯同する場合とがあり、それぞれ役割やサポート体制などが異なります。

いずれにおいても、異国における非日常的な環境や生活習慣など、大きな環境の変化と移動にかかる時間などの問題がコンディショニングや傷害、疾病などのリスクが大きくなります。

その中で、それぞれが目標を達成するためにはスポーツ医科学的見地からのサポートが必要になります。

スポーツトレーナーはさまざまな方向からスポーツ医科学的な対策を講じ、目的におうじたコンディショニングを計画、実行する必要があります。

ここでは、国際競技会に出場する、単独競技種目を対象としてまとめていきます。

 

出発前の準備

出発前の準備

海外遠征にそなえ、競技者やチームがベストコンディションで目的を達成するために、スポーツトレーナーはスタッフと協力し、海外での生活に備え、さまざまな準備を進めていかなければなりません。

 

チームスタッフとの打ち合わせ(目的の確認)

遠征の目的が、競技会出場なのか、強化なのか、経験を積ませるのかなど明確にし、アスリート、スタッフが十分に認識しておく必要があります。

目的を明確にすることによって、アスリートのサポート体制をどのようにするか、スケジューリング、スタッフの人数、携行物品などが決まるため、スタッフ間、アスリートとの意思の疎通が重要です。

 

現地の情報収集

事前に、目的国と目的地の環境、気候、言語、風習、通貨、生活状況、治安、宿舎のロケーションなどのあらゆる情報をできる限り収集します。

【情報収集項目】

<環境関係>
①生活環境:時差、気候、風土、生活習慣、文化、通貨、言語、物価、治安状態、交通事情
②衛生状態:食物、飲料水、氷
③宿舎関係:施設、設備、位置、宿舎周囲の状況
④電源関係:ソケット形状、電圧
⑤通信環境:電話、ファックス、LAN回線、モジュラージャック形状、公衆電話などの通信環境
⑥食事関係:宿泊施設およびそれ以外の食事環境、日本食レストランの有無
⑦医療関係:緊急時搬送医療機関
<競技場関係>
①競技場のロケーション:宿舎からの交通と所要時間
②競技会場の設備:試合会場、練習会場、ロッカールーム、シャワールーム、給水設備
③競技会場の医療設備:医務、救急体制、氷と飲料水の配備、トレーナー・理学療法関係配備および設備
④トレーニング設備:ジム、プール、グラウンド、体育館などの規模、設備、使用方法、料金
<宿舎・選手村関係>
①宿舎のロケーション:空港、競技場までの交通、所要時間
②宿泊施設の環境:宿泊施設内の設備
③宿舎周辺の環境:治安、交通、公園、商店、飲食店などの有無
④飲料水、氷の確保:氷、ミネラルウォーターなどの入手、販売状況
⑤食事関係:宿舎・選手村内の食事環境
⑥通信環境:電話、ファックス、モジュラージャック形状、選手村公衆電話など本部、選手村内の通信環境
⑦医療設備

 

アスリート・スタッフへの情報提供

現地情報が収集されたら、アスリート、スタッフに必要な健康管理関連の情報や現地での生活情報を提供することが必要です。

移動中の機内での過ごし方や、現地到着後の生活、活動予定など時差による影響を最小限に止めるための工夫はアスリート自身が知って実行しないと現地到着後のコンディションに影響が出ます。

また、現地の文化や風習を知ることは、不用意なトラブルを予防することにもつながるので、周知徹底させる必要があります。

【アスリート・スタッフへの情報提供】

・移動、機内での注意
・衛生状況(飲食関係)
・治安状況(外出、宿舎での注意)
・現地の文化、風習(してはいけないこと、日本との違い)
・その他

 

携行品の決定と準備・管理

携行品の決定は、大会の規模(競技数、総競技者数)や事前調査の結果および活動方針、活動内容、トレーナー室スペースの確保の状況などにより決定されます。

【携行品リスト】

・テーピング用品:各種テープ、スプレー
・衛生材料:消毒剤、ガーゼ、カット綿、綿棒など
・治療機器:ホットパック、低周波治療器、超音波治療器
・トレーナーズキット
・ポータブルベッド
・アイシング用品:アイスバッグ、ビニール袋、コールドパック
・救急用品:固定装具、松葉杖、アンビュバッグ、CPRマスク、AED
・装具:各種ブレース、スタビライザー、サポーター
・その他:タオル、ビニール袋、雑貨
・記録用紙
・コンピューター
・トランシーバー

持参する荷物は事前に航空会社に積載可能な荷物の総重量を問い合わせておかないと多大な超過料金がかかってしまうことを念頭において準備を進めることが必要です。

これらのことを怠ると、出発当日の空港カウンターで荷物を載せられなくなったり、高額な超過料金を収めることになります。

携行品を梱包する際は段ボールなどを利用することが多いですが、目的地までに乗り継ぎがある場合や、数ヶ国または現地国内を数カ所に渡り移動する場合、段ボールでは劣化・破損することが多く、搬送に向かない場合があります。

そういった場合には、荷解きや荷造りが簡単で、使用しないときは小さく収納できるような大型のキャリーバッグなどが便利です。

 

携行品が決定したら、その総数、総重量を確認し、それぞれのパッケージに内容明細を添付するとともに一覧表を作成し、コピーはスポーツトレーナーまたはマネージャーがつねに携帯するようにします。

国によっては持ち込めない制限品(食品、植物、果物、加工品、薬品など)があるので注意する必要があります。

 

携行品準備の注意点

テーピング用品、衛生材料

日常の練習、合宿などで1日に消費されるテーピング用品の数量を調査し、その約1.3〜1.5倍の量を、衛生材料については約2倍の量を目安に準備します。

国によっては処理用の氷の調達が思うようにできない場合があるので、量がかさむがインスタントコールドパックまたはそれに代わる冷却材を用意しなければならない場合があります。

 

ポータブルベッド

スポーツトレーナーやドクターの業務を円滑におこなう上で、テーピングやストレッチなどの作業効率を考えると、ポータブルベッドは必需品です。

しかし、移動を考えると非常にかさばる荷物であり、別途超過料金を支払う対象にもなるため、現地でレンタル可能かどうかを確認して、可能であれば事前に手配します。

 

治療機器

コンディショニングに必要な治療機器は、できる限り携帯性に優れ、電源はバッテリーから取る機器を用意します。

どうしても電源を引かなければならない場合は、電源のタイプを事前に調査し、使用した電圧に合った変圧器やソケット、延長コードなどを用意しなければなりません。

可能であれば、使用できる総ワット数も宿泊先に問い合わせをしておきましょう。

 

医薬品・救急用品

医薬品は帯同するチームドクターの分野となるため、医薬品は原則としてスポーツトレーナーは携行しないようにします。

必要な場合は現地医療機関を利用することになるため、あらかじめ下調べが必要です。

救急用品については、大きな大会では救急体制が整っていることが多く、ドクターや救急車、救急隊がつねに待機している大会もあります。

しかし、単独チームでの遠征、合宿などでは、すべてチーム側で行わなければならないため、救急時の搬送先、周囲の医療機関などは事前に調査しリストアップしておく必要があります。

 

移動・輸送計画

移動・輸送計画

遠征チームの人員構成は、競技種目や大会の規模などによって異なりますが、アスリート、コーチングスタッフ、マネージメントスタッフ、メディカルスタッフなどで構成され、その総勢は数名から、数十名になる場合があります。

人数が多くなるほど移動時のとりまとめがむずかしくなるため、移動時のスケジュールを十分に打ち合わせしておくことが必要です。

何時に現地到着し、どのような方法で何時に宿舎に入るかなど移動方法とその時間についてもアスリート、スタッフともに把握しておかなければなりません。

集団で移動する場合も、はぐれることを想定し集合場所を決めておくなどの事故対策を考慮することも準備します。

 

移動中の対策と時差対策

移動にかかる時間と時差の影響はコンディション調整に大きな問題となります。

移動中に、医学的な問題となるものとして、「下腿深部静脈血栓症」いわゆる「エコノミー症候群」があります。

また、気圧の変化によって「航空性中耳炎」を発症することがあるため、以下のことに注意しておきましょう。

 

機内での注意

・水分をとる。(アルコール、コーヒーなどの刺激物は避ける)
・1時間ごとに立って歩く。
・時々軽い体操、ストレッチをする。
・座席で3〜5分間、足首の運動をする。
・ゆったりした衣服を着て、ベルトをゆるめる。
・脚を組まない(血行が悪くなるため)

現地に到着後は、宿舎の周りの散策をかねて散歩やジョギング、体操、ストレッチングなどの軽い運動をおこない、日中の場合はできるだけ日光にあたるようにし、現地時間に身体を慣れさせるようにしましょう。

夜間到着する場合は、就寝前にストレッチングや軽い体操をするなど現地生活時間にはやく順応させる工夫が必要になります。

 

現地での生活

現地での生活

宿舎

現地宿舎では、部屋割りと安全対策が重要となります。

部屋割りは、できる限り全員同じフロアで移動が少ないほうが連絡が取りやすく、目も行き届くため都合がよくなります。

女性チームや若年層のチームの場合はエレベーター掘るから近い順に、男性スタッフ、女性スタッフ、アスリートというように外部からの侵入を考慮することも大切です。

また、緊急時の避難経路、非常口などを確認し、アスリート、スタッフらに告知することや自室ドアの開閉時の問題についても十分に注意を促し、不用意な事件・事故を起こさないような防止策が求められます。

 

食事

海外遠征時の食事に関しては、栄養スタッフが帯同できない場合は、スポーツトレーナーが食事の管理をしなければならないことがあるため、食事、栄養についての知識を身につけておく必要があります。

スポーツトレーナーが直接、食事の管理にかかわらなくても、アスリートの身体的状況を判断し、栄養のバランス、食事がとれるような工夫をしていくことも必要です。

とくに、生ものや生水、刺激物などでコンディションを崩す恐れがあることに十分注意することが重要です。

 

トレーナー室の確保

複数のスポーツトレーナーが帯同する場合、専用のトレーナー室を確保し、その一室にドクターも含めた医療活動の拠点を設置することが理想ですが、思ったように設置できないことが多いです。

通常考えられるケースでは、トレーナー室がアスレティックトレーナー の宿泊する部屋と同じ場合が多くなります。

その場合、スポーツトレーナーが寝起きするベッドのほかに、コンディショニングに使用するポータブルベッドが1〜2台分置ける広さが必要です。

ポータブルベッド、治療機器などの配置をデザインし、テーピング、治療、コンディショニングなどの業務が円滑におこなわれるようなスペースと環境を確保することが大切です。

 

業務時間の確保

現地日程が確定したら、業務をおこなう場所、業務内容、利用手順、業務時間などを設定し、チーム、競技者、スタッフに通知します。

 

飲料水、氷の確保

飲料水は、基本的にミネラルウォーターを用意する方が問題は少なくなります。

飲料水を冷やしたりアイシングに使用する氷などは、到着時に、調達する場所、調達できる量などについて確認します。

給水する容器は、感染防止のためにも、できれば使い捨ての紙コップが用意できれば安心できるが、量がかさばったり、数に限りが出たりするため現実的ではありません。

個人用のスクイズボトルなどを用いるなどして、衛生面には十分に注意していきます。

 

救急体制

合宿や遠征などの緊急時の対応については、宿舎や練習場周辺の救急搬送医療機関や病院などは現地関係者と相談して確認しておくことが必要です。

また、言語の問題や医療にたいする規制など日本と異なる場合があるため、アスリートやスタッフの保険関係、既往歴、アレルギーなど重要となる情報は事前に調査し、現地の言葉で説明できるようにしておくことが望ましいです。

国や都市によっては日本人の医師や日本人向けの病院があるところがあり、チームドクターを通じ緊急時に連絡がとれやすいようにしておくことも必要です。

 

期間中のコンディショニング

遠征期間が長ければ長いほど心身のストレスは高くなり、体力面でもパフォーマンスが低下していくことがあります。

これらを避けるためには、衛生期間中でも体力を維持したり、リフレッシュするような専門練習以外のコンディショニングトレーニングを最低3日に1回の割合でプログラムする必要があります。

期間中のスケジュールはアスリートが把握できるようにスタッフの部屋の前に張り出しておくようにします。

そうすることで、これからの予定にたいする心の準備を促すことができます。

海外で行われる試合や合宿、遠征には国内でおこなわれる時よりも、一般生活をふくめた環境や、治安、文化、風習など、その国や地域の状況を事前に調査し、それらをもとに傷害や疾病だけでなく、事件や事故など、あらゆる事態を念頭において準備を進めることが重要です。