スポーツトレーナーの認知が広がるにつれて,スポーツトレーナーに求められる役割と専門性も変わってきています
専門性が広く求められてきたことから,スポーツ心理学やスポーツ栄養学なども広がり,さらにはストレングストレーナーやフィットネストレーナー,コンディショニングトレーナー,メディカルトレーナーなど細分化が進んできています
今回は,スポーツトレーナーに求められることについて基本的な事項をまとめていきます
コンディショニングの専門家へのニーズ
競技スポーツの最も大きな目的は、競技成績の獲得すなわち究極は競技に勝つことである。その目的を果たすために、競技成績を向上させるための体力の強化や競技技術の習得など、勝つための方策を常に模索しながら多大な努力を惜しみなく続けていく。その目標達成に対するモチベーションが高くなればなるほど、競技者や指導者には、どうすれば強くなれるか、勝てるかという究極の方法を求める度合いも高くなる。
アスリートや指導者は「勝つ」ということのためにどうしていくかを追求していき、より効果的なトレーニング法やより効率的な練習法の模索というポジティブな面に注力してきました
その成果として競技パフォーマンスは格段に向上してきました。
しかし、そういったポジティブな面に重点をおいてしまうと、身体に過度な負荷がかかってしまいます。
そうすると、疾病やスポーツ外傷・障害を引き起こし、トレーニングや練習の継続が難しくなるため、結果的に競技パフォーマンスが低下してしまいます。
そういったネガティブな面の問題が注目されはじめ、その部分への対策としてスポーツトレーナーがコンディショニングやリコンディショニングをおこなうようになってきました。
そういった背景から、アスリートの競技能力(体力・技術・才能・素質など)をより効率的に高めていくためのポジティブな面のコンディショニングにあわせて、特に外傷・障害・疾病・疲労などのような、競技成績に対するネガティブな影響をできる限り少なくするためのコンディショニングをおこなう専門家として、スポーツトレーナーのニーズが高まってきたといえます。
スポーツトレーナーの役割の推移
競技者のコンディションをより良好な状態にする役割は、わが国においてもかなり古い時代から行われていた。それは主に競技者へのマッサージであり、1964年の東京オリンピックにおいて約100名のトレーナーが参加したことを境にマッサージ師の資格を有する人たちがトレーナーとして徐々にスポーツ界に浸透していった。
日本で最初にスポーツトレーナーとして活動しはじめたとき、鍼灸・マッサージ・指圧などによってスポーツ外傷の治療や疲労回復などをおこなっていました。
そのため、この頃のスポーツトレーナーの主な役割は「マッサージ」でした。
そのマッサージを中心とした活動の流れに変化をあたえたのは、野球やアメリカンフットボールのアメリカチームとともに来日したスポーツトレーナーといわれています。
当時から、アメリカにおけるスポーツトレーナーは正式に「アスレティックトレーナー」と呼ばれ、その役割は日本のスポーツトレーナーやヨーロッパのマッサーのようにマッサージを中心としたものではありませんでした。
アメリカのアスレティックトレーナーは、スポーツドクターとの緊密な連携の下に、スポーツ外傷・障害の予防、救急処置、リハビリテーション、再発予防を総合的に管理していたようです。
1975年頃、このアメリカにおけるアスレティックトレーナーの役割およびその教育システムが日本に紹介されたことで、日本におけるアスレティックトレーナーの役割にたいする認識が大きく変わりました。
その後、5年間の間に、テーピングやアイシング、ストレッチングなどのスキルが伝えられ、アメリカのスポーツ医学の文化が一気に日本に浸透しました。
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↑の記事のように、日本におけるスポーツトレーナーの役割の推移は、従来のマッサージを中心とした活動の流れに、アメリカのアスレティックトレーナーの流れが加わりました。
さらにスポーツ医科学の発展と競技スポーツの高度化もあり、現在のスポーツトレーナーのように、競技者の外傷・障害・疾病などにともなう影響をできる限り少なくするようなスポーツ医科学全般からの働きかけを、他の専門家と連携しながらおこなうようになったとされています。
日本スポーツ協会アスレティックトレーナーの役割
競技スポーツの現場では、競技パフォーマンスの向上を目的とするハイレベルなトレーニングや大会などの影響で、スポーツ傷害が増加しました。
それに伴い、医学的診断や治療をおこなうドクターと、技術面や戦術面の指導を担うコーチの間のパイプ役となるアスレティックトレーナーの必要性が高まりました。
日本体育協会(現在の日本スポーツ協会)は、このような背景をふまえて、日本でのスポーツトレーナー制度を確立するために、1994年にどう協会の指導者養成事業としてアスレティックトレーナー制度を発足させました。
これは、さまざまな資格や立場が乱立し、レベル差の大きい日本の「スポーツトレーナー」に一定の基準を設けて、基礎知識・技能の面で共通の物差しでアスリートのサポート活動ができるようにという考えで始まった制度でした。
日本スポーツ協会アスレティックトレーナー養成計画によると、アスレティックトレーナーの役割は以下のように規定されています。
日本スポーツ協会公認スポーツドクター及び公認コーチとの緊密な協力のもとに、スポーツ選手の健康管理、傷害予防、スポーツ外傷・障害の救急処置、リハビリテーション及び体力トレーニング、コンディショニングなどを担当する。
つまり、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナーは、医学的診断や治療をおこなうドクターと、技術面や戦術面の指導を担うコーチとの間を取り持つパイプ役となり、緊密な協力のもとにアスリートの傷害予防、救急処置、リハビリテーションなどの幅広い健康管理をおこなう医科学サポートスタッフとして活躍することになります。
まとめ
以上のように、日本におけるスポーツトレーナーは、マッサージが主だった役割から、テーピングやアイシング、ストレッチングなどのスキルが伝わってきたことから、大きく変化してきました。
近年のインターネットの普及により、スポーツトレーナー業界もより多くの情報が得られるようになりました。
今後、スポーツトレーナーとして、情報から多くのことを学びながら、アスリートの心身のコンディショニングの専門家としての役割を果たしていけるようにしていくことが大切ですね。